貸付停止による消滅時効の主張についての新し論点
前提論点①・貸付停止で消滅時効の主張が認められるには貸主の認識可能性が必要であるとの反論が認められた。
※東京地裁令和3年2月19日
過払い金充当合意の解釈
「一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解されるところ(平成21年判決参照)」である。
貸付停止について借主の認識または少なくとも認識し得たことが必要
「上記趣旨に照らせば,同取引が終了したといえるためには,基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が客観的に見込まれなくなったことに加え,過払金返還請求権を行使することになる借主において,その原因となる事実関係を,少なくとも認識し得たことが必要であるというべきである。」
前提論点②・貸付けが再開されることがあり得ることを理由に消滅時効の主張を認めなかった。
※東京高裁平成25年12月12日
「しかし、これらの処理を通じて、被控訴人に対する新たな貸付が困難な事態になったといえるとしても、それ以上に、貸付がされる可能性が皆無になったとか、新たな借入金債務の発生が見込まれなくなったとまではいえない。殊に本件会員規約3条所定の貸付停止措置は、あくまで貸付けの停止ないし中止であって、基本契約等を解除するものではないし、本件っ会員規約3条4項の規定に照らしても、被控訴人の信用状態が回復するなど停止措置に至った事由が解消すれば、貸付けが再開されることはあり得ると考えられるから、この措置によって新たな借入金債務の発生が見込まれなくなったということもできない。」
※信用状況の改善によって貸付停止解除の文言がある業者にはアコム、プロミスなどがあります。
客観的な認識可能性が必要
「もっとも、その後、控訴人が移管処理や貸倒損失処理をとったことも考慮すると、被控訴人に対する新たな貸付けがされる可能性は相当に小さい事態となったことは明らかであるが、被控訴人は、控訴人が貸付停止措置をとったことを知らず、移管処理や貸倒損失処理をとったことも知らなかったといえるし、それらの処理のとられたことが客観的にも認識可能であったと認めるに足りないから、本件取引がいまだに終了したとはいえない以上、上記の貸付停止措置等がとられた時点から被控訴人の過払金返還請求権の消滅時効が進行すると解することはできない。」
新しい論点 総量規制を理由とする法律に基づく貸付停止措置について消滅時効の主張
貸付停止が総量規制を理由にする法律によるものであるから、消費者金融業者側の判断で自由に解除できないとの点を主張することがあります。
しかし、そもそも、前提論点①及び②からすると、事実上貸付ができなくなったかどうかではなく、法的に貸付を再開できる可能性があればよいはずであって、総量規制については年収の上昇や返済による貸金残高の減少、配偶者貸付制度の利用で、借入が再開できるようになるため、貸付停止の時点で確定的に貸付ができなくなったとは認められないと考えられます。
総量規制の制度趣旨からも貸付停止措置による消滅時効の主張を認めるべきではない。
総量規制によって新たな借入を制限すべきとされる場合でも、過払い金が発生していれば、そもそも、本来は借入金がないのですから、総量規制する必要性もありません。
これは、総量規制によって借主の年収に比して多額の借り入れを防止しようとした制度の趣旨に反するものです。
実質を考えても、過払い金が発生しているのを知っていて返済するように請求を続けているまたは続けていた貸金業者に対して総量規制の制度について有利な解釈をするべきではないと考えられます。
上記のように貸金業者は日々新しい主張をしてきますので、まずは、弁護士にご相談ください。